はじめにお読みください
このページは、救急隊や医師に引き継ぐまでの一般的な応急手当の知識をまとめたものです。医療行為の指示ではありません。可能な限り119番通報を最優先し、通信指令員の指示がある場合はそちらに従ってください。実際の手当ては、消防署や日本赤十字社が行う救命講習で一度体験しておくことを強くおすすめします。
災害時は「救急車が来ない」前提で考える
ふだんなら119番通報から10分ほどで救急車が到着します。しかし大規模災害では事情が変わります。
- 通報が同時に殺到し、電話がつながりにくい
- 道路が寸断・渋滞して、救急車が現場にたどり着けない
- 病院自体が被災し、受け入れられる数が限られる
- 重症者が優先され、軽症・中等症は後回しになる
だからこそ、家庭でできる手当ての知識が意味を持ちます。とはいえ、覚えることは多くありません。
この記事の結論
①出血は押さえる(きれいな布で強く直接圧迫)②やけどはすぐ冷やす(流水で10〜20分)③骨折は動かさず固定④反応がなければ胸骨圧迫とAED。この4つと救急セットがあれば、多くの場面で最初の対応ができます。
手当ての前に:安全確認と全身の観察
けが人を助ける前に、まず自分の安全を確保してください。助ける人が二次被害に遭うと、被害が倍になります。
- 倒壊しそうな建物、落下物、火災、ガス漏れ、露出した電線がないか
- 危険がある場合は、無理に近づかず助けを呼ぶ
- 血液に触れる可能性があるため、できれば使い捨て手袋やポリ袋を手にかぶせる(感染予防)
反応の確かめ方
- 肩を優しくたたきながら、大きな声で「大丈夫ですか」と呼びかける
- 反応があれば、どこが痛いか・どうしたかを聞く
- 反応がなければ、すぐに人を呼び、119番とAEDの手配を頼む(後述の心肺蘇生へ)
出血を止める:直接圧迫法
大量の出血は短時間で命に関わります。もっとも確実で、誰にでもできるのが直接圧迫法です。
- 清潔な布を傷口に当てる
ガーゼ、清潔なタオル、ハンカチなど。なければ衣類でも構いません。
- 手のひらで強く押さえる
「強すぎるかな」と思うくらいの力で、まっすぐ圧迫します。
- 押さえ続ける
途中で確認のために離すと、固まりかけた血が流れ出します。10分以上は離さずに押さえ続けます。
- 血がにじんできたら、布を足す
下の布は取らず、上から重ねてさらに圧迫します。
できれば心臓より高く
手足の出血なら、押さえながら傷口を心臓より高く上げると、血の勢いが弱まります。ただし骨折が疑われる場合は無理に動かさないでください。
こんなときはためらわず119番
圧迫しても血が止まらない、出血の量が多い、意識がもうろうとしている、顔色が真っ白で冷や汗が出ている——このような場合は生命に関わる状態の可能性があります。すぐに119番通報し、通信指令員の指示を仰いでください。
やけどの手当て:とにかく冷やす
やけどはいかに早く冷やすかで、その後の傷の深さが変わります。
- すぐに流水で冷やす。水道が生きていれば10〜20分程度が目安です
- 衣類の上からでよい。無理に脱がせると皮膚がはがれることがあります
- 指輪・時計・ベルトなど、腫れて締めつけるものは早めに外す
- 冷やした後は、清潔なガーゼやラップでやさしく覆う
- 水ぶくれは破らない。細菌が入る入り口になります
やってはいけないこと
みそ・油・アロエなど民間療法のものを塗らないでください。傷を悪化させ、医師が状態を確認するのも難しくなります。また、氷や保冷剤を直接当てると凍傷になるため、冷やすのは流水か、冷たい水で濡らした布にしてください。
断水しているときの冷やし方
断水中で流水が使えない場合は、ペットボトルの水をゆっくりかける、冷たい水で濡らしたタオルをこまめに取り替える、といった方法で代用します。備蓄の水を使うことになりますが、やけどは冷却が最優先です。
広い範囲のやけど、顔・手・関節・陰部のやけど、皮膚が白や黒に変色しているやけどは、必ず医療機関で診てもらってください。
骨折・捻挫:動かさずに固定する
地震では、家具の下敷きや転倒による骨折が多く発生します。手当ての基本は「動かさない」ことです。
- 変形している、強い痛みがある、腫れている場合は骨折を疑います
- 元に戻そうとしない。神経や血管を傷つける恐れがあります
- 添え木(板、丸めた雑誌、傘、段ボールなど)を当て、包帯・タオル・ガムテープで固定します
- 固定はけがをした関節の上下も含めて行うと安定します
- 固定後、指先の色が悪くなったり、しびれたりしたら、きつすぎるのでゆるめます
- 腫れと痛みを抑えるため、可能なら冷やします
首や背中を痛めている可能性があるとき
高い所から落ちた、頭を強く打った、首や背中に痛みがある場合は、むやみに動かさないでください。脊髄を傷つける恐れがあります。命に関わる危険(火災や倒壊)が迫っていない限り、その場で救助を待つのが原則です。
反応がないとき:胸骨圧迫とAED
呼びかけへの反応がなく、呼吸をしていない、または普段どおりの呼吸ではない場合は、心停止の可能性があります。
- 大声で助けを呼ぶ
「誰か来てください」「あなたは119番へ、あなたはAEDを持ってきてください」と、具体的に人を指名して頼みます。
- 呼吸を確認する
胸とお腹の動きを10秒以内で見ます。動いていない、しゃくり上げるような不規則な呼吸なら、心停止と判断します。
- 胸骨圧迫を始める
胸の真ん中に手のひらの付け根を置き、両手を重ねて、真上から強く速く押します。目安は1分間に100〜120回のテンポ、深さ約5センチ。押したらしっかり戻すことも大切です。
- AEDが届いたら、電源を入れて音声に従う
AEDは電源を入れると音声で手順を教えてくれます。パッドを貼る位置も本体に絵で示されています。指示どおりに操作すれば大丈夫です。
人工呼吸ができなくても、胸骨圧迫だけで意味があります
感染への不安や技術に自信がない場合、人工呼吸を省略して胸骨圧迫だけを続ける方法も広く推奨されています。何もしないより、押し続けることに大きな意味があります。救急隊が到着するか、その人が動き出すまで続けてください。交代できる人がいれば、疲れる前に交代します。
AEDの設置場所は、ふだんから通勤路や近所の公共施設で確認しておくと安心です。日本救急医療財団などが運営する全国AEDマップで検索できます。
家庭の救急セットに入れておく物
市販の救急セットに、家族に合わせて足すのが基本です。非常用持ち出し袋と自宅用の2セットあると安心です。
| 分類 | 品目 |
|---|---|
| 止血・傷の手当て | 滅菌ガーゼ(大小)、包帯、三角巾、絆創膏(各サイズ)、テープ、清潔なタオル |
| 消毒・洗浄 | 消毒液、生理食塩水または飲用の水(傷口を洗う用)、ウェットティッシュ |
| 感染予防 | 使い捨て手袋(数組)、マスク |
| 道具 | はさみ、ピンセット、体温計、安全ピン、ペンライト |
| 薬 | 常用薬(最低7日分)、解熱鎮痛剤、胃腸薬、下痢止め、かゆみ止め、目薬 |
| その他 | 冷却シート、使い捨てカイロ、お薬手帳のコピー、アルミブランケット |
持病がある家族がいる場合
常用薬は最優先の備蓄です。かかりつけ医に「災害時に備えて少し多めに」と相談できることがあります。お薬手帳のコピーやスマホでの撮影も忘れずに。詳しくは高齢者がいる家庭の防災で解説しています。
救命講習を受けておくと段違いに動ける
ここまで読んでも、実際に手が動くかは別問題です。もっとも効果的な備えは、一度体験しておくことです。
- 各地の消防署が実施する普通救命講習(3時間程度)で、胸骨圧迫・AED・止血を実習できます
- 日本赤十字社の救急法講習でも、手当ての基本を学べます
- 多くは無料または低額で、申し込みは自治体や消防のサイトから可能です
- 子どもと一緒に参加できる講習もあります(子どもの防災参照)
「(お住まいの市区町村名) 普通救命講習」で検索してみてください。一度受けておくと、いざというときの迷いが大きく減ります。
応急手当のQ&A
Q. 素人が手を出して悪化させてしまうのが怖いです。
A. その不安はもっともです。ただ、このページで紹介した「押さえる」「冷やす」「動かさない」は、悪化のリスクが低く効果が大きい手当てです。判断に迷ったら119番に電話をつなぎ、通信指令員の指示を受けながら行うのがもっとも安全です。
Q. 災害時に病院へ行くべきか迷ったら?
A. 大災害時は、医療機関が重症者を優先します。軽いけがであれば、まず自宅で手当てをして様子を見る判断も必要になります。ただし、出血が止まらない・意識がおかしい・強い痛みが続く・呼吸が苦しい場合は、ためらわず助けを求めてください。
Q. 家具の下敷きになった人を助け出していいですか?
A. 長時間挟まれていた場合、急に圧迫を解くと体調が急変することがあります(クラッシュ症候群と呼ばれます)。長時間挟まれていた人については、可能な限り救助の専門家を待ち、119番で状況を伝えてください。すぐに助け出せる軽い挟まれ方であれば、周囲の安全を確認したうえで救出します。
Q. 子どもへの胸骨圧迫は大人と同じですか?
A. 基本の考え方は同じですが、体格に応じて力加減が変わります(小児は片手、乳児は指2本など)。詳しい方法は救命講習で学べます。迷ったときは119番の指示に従ってください。