巨大地震が「ふつうの地震」と決定的に違う点
震度7の揺れそのものは、これまでの地震でも起きています。南海トラフ地震や首都直下地震が特別視されるのは、揺れの強さより被害を受ける範囲の広さにあります。
| 局地的な地震 | 広域の巨大地震 | |
|---|---|---|
| 被災地の外 | 無事なので、支援を送れる | 周辺も同時に被災し、支援する側がいない |
| 支援物資 | 数日で届き始める | 需要が膨大で、行き渡るまで1週間以上かかることも |
| ライフライン | 数日〜1週間で復旧 | 復旧要員が足りず数週間〜数か月の地域も |
| 避難所 | 収容できる | 避難者が多すぎて入れないことがある |
つまり、巨大地震への備えとは「助けが来るまでの時間が長い」ことへの備えです。特別な道具ではなく、備蓄の量と自宅で生活を続ける力を厚くすることが中心になります。
この記事の結論
①備蓄は3日ではなく1週間以上(水・食料・トイレ・薬)②自宅で生活を続けられる状態にする(家具固定・耐震・電源)③離れた家族との連絡ルールを決めておく。この3つが、巨大地震への備えの柱です。
南海トラフ地震で想定されていること
南海トラフ地震は、静岡県から宮崎県にかけての太平洋沖を震源域とする巨大地震です。国は、広い範囲での強い揺れと津波を想定しています。
- 揺れの範囲が非常に広い。関東から九州まで、複数の県で同時に強い揺れが想定されています
- 津波の到達が早い地域がある。震源に近い沿岸部では、揺れの数分後に津波が到達すると想定される場所もあります
- ライフラインの復旧に時間がかかる。被災範囲が広いため、復旧作業の人手と資材が分散します
- 物流が広域で止まり、被災地の外でも品不足が起きる可能性があります
「南海トラフ地震臨時情報」を知っておく
南海トラフの想定震源域で異常な現象が観測されたとき、気象庁から「南海トラフ地震臨時情報」が発表される仕組みがあります。「巨大地震警戒」「巨大地震注意」などの種類があり、発表されると自治体から避難や備えの呼びかけが行われます。これは地震の予知ではなく、注意を促す情報です。発表されたら、テレビや自治体の案内に従い、備蓄の確認や避難経路の再確認を行ってください。
南海トラフ地震臨時情報の4つの種類
臨時情報には、状況に応じて次のキーワードが付きます。ニュースで流れたときに意味が分かるよう、目を通しておいてください。
| キーワード | 意味 | 求められる行動 |
|---|---|---|
| 調査中 | 異常な現象が観測され、関連を調べている段階 | 続報を待つ。テレビ・防災アプリを確認 |
| 巨大地震警戒 | 想定震源域でマグニチュード8以上の地震が発生したなど、もっとも警戒度が高い状態 | 津波からの避難が間に合わない地域では1週間の事前避難。それ以外も備えを再確認 |
| 巨大地震注意 | マグニチュード7以上の地震が発生したなど、警戒が必要な状態 | 1週間程度、ふだんの生活を続けながら備えを再確認 |
| 調査終了 | 調査の結果、特段の変化がなかった | 平常の備えに戻る |
臨時情報が出たときにやること(現実的な範囲で)
「巨大地震注意」で仕事や学校を休む必要はありません。求められているのはふだんの生活を続けながら、いつ地震が起きてもすぐ避難できる状態を保つことです。具体的には、寝るときに枕元へ靴と懐中電灯を置く、非常持ち出し袋を玄関に移す、家具の固定を点検する、家族の集合場所を確認し直す、といったことです。過剰な買い占めは、かえって必要な人に物が届かなくなるので避けてください。
沿岸部にお住まいの方、旅行で海沿いに行く方は、津波から命を守るページもあわせてお読みください。津波は「揺れたら即、高い所へ」が原則です。
首都直下地震で想定されていること
首都直下地震は、東京を中心とした人口密集地の直下で起きる地震です。人と建物が集中しているため、特有の問題が想定されています。
- 帰宅困難者の大量発生。鉄道が止まり、大勢が同時に徒歩で帰ろうとすると、道路が混乱して救助の妨げになります
- 木造住宅密集地域での火災。同時多発的な出火と延焼が想定されています(住宅火災への備え)
- 高層ビル・マンションの長周期地震動。上層階が大きく長く揺れ、家具が大きく移動します
- エレベーター停止による閉じ込めと、高層階での「高層難民」化(マンションの防災)
職場で被災した場合の行動については、職場で被災したら「帰らない」が正解?のコラムで詳しく解説しています。「むやみに移動を開始しない」が基本です。
令和8年熊本地震が突きつけたこと
2026年7月28日、熊本県を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、宇城市と氷川町で震度7を観測しました。2024年の能登半島地震以来の震度7であり、熊本県内では2016年の熊本地震から10年ぶりのことでした。
この地震で改めて浮き彫りになった課題は、私たちの備えに直結します。
教訓1:真夏の被災という現実
発生は7月末、一年でもっとも暑い時期でした。避難所に冷房が備わっていない施設が多く、猛暑のなかでの避難生活が大きな負担となったことが課題として指摘されています。
災害は涼しい季節を選んでは起きません。「夏に被災したら」という想定を、備蓄と避難計画に組み込む必要があります。電池式の扇風機、冷却シート、経口補水液の粉末といった暑さ対策の品は、持ち出し袋に入れておく価値があります。詳しくは猛暑・熱中症への備えで解説しています。
教訓2:断水は停電より長引く
この地震では、断水がおよそ8万4千戸、停電が約3万2千戸に及びました。停電のほうが早く復旧し、断水は長く残る——これは過去の地震でも繰り返されてきた傾向です。
水道管は地中に埋まっているため、破損箇所を探すだけでも時間がかかります。だからこそ、備蓄の優先順位では水と携帯トイレを厚くするのが合理的です(断水への備え、災害時のトイレ)。
教訓3:住宅被害の大半は「一部破損」
住宅被害は全壊約1,700棟、半壊約3,100棟に対し、一部破損は約2万7千棟と、桁違いに多くなりました。
これは、多くの家庭にとって「家は建っているが、屋根や壁が傷んでいる」という状態が現実的だということです。この場合も罹災証明書の対象になり、支援や保険の申請ができます。「全壊でないから関係ない」と思い込まず、必ず写真を撮って申請してください(被災後にやること)。
教訓4:高層階の長周期地震動
この地震では、宇城市と八代市で長周期地震動階級4(最大の階級)が観測されました。長周期地震動はゆっくりとした大きな揺れで、高層階ほど大きく長く揺れ、家具が部屋の端から端まで移動することがあります。
マンションの高層階にお住まいの方は、キャスター付き家具のロック、背の高い家具の固定を必ず行ってください(マンションの防災)。
「10年ぶり」という言葉の意味
熊本では2016年に大きな地震を経験しました。それから10年、備えを続けていた家庭と、記憶が薄れた家庭とで差が出たと考えられます。防災の備えは、一度そろえて終わりではありません。年に一度は備蓄の期限と家具の固定を点検する日をつくってください。9月1日の防災の日が使いやすい目安です。
備蓄は「1週間以上」に引き上げる
通常の備えは最低3日分ですが、広域災害では1週間、できればそれ以上が推奨されます。ここが最大の違いです。
| 品目 | 1週間分の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 飲料水 | 84リットル(2Lペット42本=7箱) | 1人1日3L×4人×7日。夏はさらに多めに |
| 食料 | 1人21食+おやつ | ふだんの食品を回すローリングストックで |
| 携帯トイレ | 140回分 | 1人1日5回×4人×7日。トイレ対策参照 |
| カセットボンベ | 24本前後 | 1人1週間6本が目安 |
| 常用薬 | 7日分以上 | 持病がある場合は最優先 |
| 電池・モバイルバッテリー | スマホ7日分 | 停電対策参照 |
一度に買いそろえなくていい
「7箱の水」と聞くとひるみますが、買い物のたびに1箱ずつ足していけば2か月ほどでそろいます。食料もローリングストックなら、ふだんの買い物を少し多めにするだけです。今日から少しずつ増やすのが、いちばん続く方法です。
「自宅で住み続けられる状態」にしておく
広域災害では避難所が足りません。自宅が無事なら、そこで生活を続ける在宅避難が現実的な選択になります。そのためには、家が壊れないこと、家の中でけがをしないことが前提です。
- 家具の固定。寝室から始める。けがの3〜5割は家具の転倒・落下が原因です(地震への備え)
- 建物の耐震性の確認。1981年5月以前の建物は耐震診断を検討(住まいの耐震化)
- ガラスの飛散防止。フィルムを貼る、カーテンを閉めて寝る
- 感震ブレーカーの設置で通電火災を防ぐ
- 玄関までの避難経路に倒れる物を置かない
離れた家族との「決めごと」を作る
広域地震では、家族がバラバラの場所で被災する可能性が高くなります。しかも電話はつながりません。
- 集合場所を第1・第2まで決める(自宅/自宅が無理なら○○小学校)
- 県外の親戚を「中継役」に。被災地内より被災地外への電話のほうがつながりやすい性質を使います
- 災害用伝言ダイヤル171のキー番号を1つに統一し、毎月1日か15日の体験利用で練習しておく
- 「連絡がなくても無事」と約束しておく。互いの不安が大きく減ります
- 子どもの学校・保育園の引き取りルールを確認(子どもの防災)
今日からできる5つのこと
巨大地震の話は規模が大きすぎて、何から手をつけるか迷いがちです。優先順に5つだけ挙げます。
- 寝室の家具を固定する
寝ている間に襲われるのが最も危険です。今夜寝る前に、倒れてくる物がないか確認を。
- 水を1箱買い足す
買い物のたびに1箱。これを繰り返すだけで1週間分に届きます。
- 携帯トイレを人数×35回分そろえる
断水はライフラインの中で復旧が最も遅くなりがちです。
- ハザードマップで自宅を確認する
津波・液状化・揺れやすさを見て、避難先を決めておきます。
- 家族の連絡ルールを紙に書く
集合場所・中継役・171のキー番号。財布に入るサイズで全員分。
巨大地震のQ&A
Q. 地震はいつ起きるか予知できるのですか?
A. 現在の科学では、「○月○日に地震が起きる」という日時を指定した予知はできません。「南海トラフ地震臨時情報」も予知ではなく、注意を促す情報です。日時を断定するインターネット上の情報はデマと考えて差し支えありません(デマにだまされない3つのチェック)。
Q. 想定地域の外に住んでいれば安心ですか?
A. 安心はできません。日本ではどこでも地震が起きる可能性があり、想定されていない場所で大地震が起きた例もあります。また、被災地の外でも物流の混乱や品不足の影響を受けます。備えは全国どこでも必要です。
Q. 備蓄1週間分は置き場所がありません。
A. 1か所にまとめず分散させると意外に収まります。ベッドの下・クローゼットの床の手前・廊下の収納など。詳しくは防災グッズはどこに置く?のコラムをご覧ください。
Q. マンションの高層階に住んでいます。何を優先すべきですか?
A. エレベーターが止まる前提で、水と食料を各戸に多めに置くことが最優先です。階段で水を運ぶのは現実的ではありません。加えて、長周期地震動で家具が大きく移動するため、固定は低層階以上に重要です。マンションの防災で詳しく解説しています。