大原則:避難は「警戒レベル3」で始める
台風・豪雨の警戒レベルのうち、レベル3の名前は「高齢者等避難」。これは「高齢者・障がいのある人・避難に時間がかかる人は、このタイミングで避難を始めてください」という専用の合図です。
なぜ早めなのか
避難には「決心する→身支度→移動」で健康な大人でも1時間近くかかります。足腰に不安があれば2倍以上。レベル4の段階では、すでに道路の冠水や暴風で移動そのものが危険になっていることがあります。「まだ大丈夫そう」の段階で出るのが、高齢者の正しい避難です。空振りに終わったら「訓練になった」でいいのです。
また、明るいうちに動くこと。夜間の避難は転倒リスクが跳ね上がります。「レベル3が出たら、暗くなる前に◯◯へ」と家族で決めておきましょう。
薬とお薬手帳:命に直結する備え
災害時、かかりつけの病院も薬局も止まります。持病の薬が切れることは、高齢者にとって食料が切れるより深刻です。
- 常用薬を最低7日分、持ち出し袋と自宅に分けて確保(処方の際に「災害用に数日分多めに」と医師に相談を)
- お薬手帳のコピー(または薬の説明書き)を持ち出し袋へ。スマホで手帳の全ページを撮影しておくのも有効
- 健康保険証・介護保険証・診察券のコピー
- 眼鏡・補聴器(と電池)・入れ歯(と洗浄剤)の予備。避難生活の質を大きく左右します
- 杖・歩行器・(使っていれば)大人用おむつ・尿とりパッド
- インスリン・在宅酸素など医療依存度が高い場合は、停電時・避難時の対応を主治医と事前に相談し、電力会社の事前登録制度も活用
お薬手帳があれば処方は再開できる
過去の大災害では、お薬手帳(またはそのコピー・写真)があれば処方箋なしで調剤を受けられる特例が運用されました。「薬の名前がわかる状態」を保つことが、そのまま備えになります。
福祉避難所と個別避難計画
- 福祉避難所:介護が必要な人などのために設けられる、設備・人員に配慮した避難所です。ただし多くの自治体では「まず一般の避難所へ→必要と判断された人が移る」二段階運用。自分の地域のルールを確認しておきましょう
- 避難行動要支援者名簿:ひとりで避難が難しい人を自治体が登録し、支援につなげる仕組み。該当しそうなら市区町村の窓口(防災担当・福祉担当)へ
- 個別避難計画:「誰が迎えに行き、どの道で、どこへ避難するか」を本人ごとに決めておく計画。ケアマネジャーや民生委員と作れる自治体が増えています
- デイサービスなど介護事業者の災害時対応(送迎中の被災・事業所での待機)も確認を
住まいの安全:転倒対策は「地震前」から効く
高齢者のけがの多くは、実は災害そのものより「転倒」です。家具の固定に加えて、次の対策は平時の転倒予防にもそのまま効きます。
- ベッド・布団の周りに倒れる家具を置かない(ガラスが飛ぶ窓の近くも避ける)
- 枕元に「眼鏡・杖・スリッパ・懐中電灯・ホイッスル」をまとめたポーチを
- 廊下・階段に物を置かない。夜間用の足元灯(停電時に自動点灯するタイプが便利)
- 寝室はできれば1階よりも上の階・崖と反対側に(水害・土砂リスクがある家)
避難生活の健康リスク:災害関連死を防ぐ
災害では、直接の被害を生き延びた後の避難生活で体調を崩して亡くなる「災害関連死」が高齢者に集中します。予防のポイントは次の4つです。
- 水分を我慢しない:「トイレが近くなるから」と水を控えるのが最悪のパターン。脱水は血栓(エコノミークラス症候群)・膀胱炎・意識障害につながります。携帯トイレの備えが水分摂取を支えます
- 体を動かす:座りっぱなし・車中泊では、数時間ごとに足首を回す・歩く
- 口の中を清潔に:歯磨きシートやうがいで誤嚥性肺炎を予防
- 食べられる物を備える:かたい非常食は食べられないことがあります。おかゆ・やわらかいレトルト・とろみ剤など、ふだんの食事に合わせた備蓄を
離れて暮らす親の防災:帰省時にやる5つ
- 寝室の家具を一緒に固定する
道具を持って帰省し、その場で作業まで終わらせるのがコツ。「今度やる」は実現しません。
- ハザードマップと避難先を一緒に確認する
紙に大きく書いて、冷蔵庫に貼っておきます。
- 連絡手段を練習する
171の体験利用、LINEのビデオ通話など、実際に一度やってみる。
- 水・携帯トイレ・薬の備蓄を確認する
重い水はネット注文で実家に直送すると喜ばれます。
- 近所の「頼れる人」を把握する
隣家・民生委員・地域包括支援センターの連絡先を共有。遠くの家族より近くの他人が最初の支援者です。
介護が必要な家族の備え:介護用品と医療機器
介護をしている家庭では、一般の備蓄リストに「その人専用の備え」を上乗せする必要があります。支援物資では代わりが手に入りにくい物ばかりなので、「専用品こそ自助備蓄」が合言葉です。
- 大人用おむつ・尿とりパッド:1週間分(1日の使用枚数×7日)。ごみ用の防臭袋もセットで
- とろみ剤・介護食(やわらか食・ミキサー食のレトルト):1週間分。ふだんの銘柄で
- 入れ歯の洗浄剤・保管ケース、口腔ケア用ウェットシート:断水時の口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防に直結します
- 常用薬2週間分とお薬手帳のコピー:処方の「予備」を作れるか、かかりつけ医に相談を
- 眼鏡・補聴器の予備と電池:避難時に忘れやすく、失うと生活の質が激減する物の代表です
- 移動を助ける道具:折りたたみ杖・車いすの空気・懐中電灯付き歩行補助具の点検
医療機器の電源は「命の電源」
在宅酸素・たん吸引器・CPAP(睡眠時無呼吸の機器)・電動ベッドなどを使っている場合は、停電時の電源計画を平時に立てておくことが必須です。①機器の内蔵バッテリーの持続時間を確認 ②ポータブル電源や手動式の代替品(手動吸引器など)を用意 ③機器メーカー・訪問看護・かかりつけ医に「停電時はどうするか」を確認 ④自治体の個別避難計画に電源の必要性を登録、の4点をこの機会にぜひ。
暑さ・寒さから高齢者を守る
高齢になると、暑さ・寒さ・のどの渇きを感じにくくなります。本人が「大丈夫」と言っていても、数字と時間で管理するのが災害時の鉄則です。
- 夏の停電:室温計を見える場所に置き、28度を超えたら涼しい場所へ移動を検討。「1時間にコップ半分」など時間を決めた水分補給を。トイレを気にして水を控える方が多いので、携帯トイレを整えて「飲んでも大丈夫」な環境を作るのが先決です。
- 冬の停電:重ね着+首・手首・足首を温める。電気毛布の代わりに湯たんぽと毛布。就寝中の低体温症に注意し、寝室の室温を保てないときは家族と同じ部屋で寝る体制に。
- 移動のサポート:暑い日・寒い日の避難は体力を消耗します。警戒レベル3での早め早めの行動が、高齢者にとっては何よりの安全策です。
高齢者の防災Q&A
Q. 携帯電話を持っていない親の安否確認はどうすれば?
A. ①固定電話で171の使い方を一緒に練習し、電話機の横に手順の紙を貼る ②近所の方や民生委員さんと日頃からつながっておき、災害時に見に行ってもらえる関係を作る ③自治体の見守りサービス・緊急通報システムの利用を検討する、の3本立てが現実的です。
Q. 足が悪く、避難所の体育館で過ごせる気がしません。
A. まず一般の避難所へ行き、受付で体の状況を伝えてください。段ボールベッドの優先配置や、体育館以外の教室への割り当て、福祉避難所への移動などが調整されます。「行っても無理だから家にいる」と危険な場所にとどまるのが最悪の選択です。
Q. 認知症の家族がいます。避難で気をつけることは?
A. 環境の変化で症状が強く出ることがあります。①服や持ち物に名前と連絡先を付ける ②お薬手帳と「本人の情報カード」(症状・接し方のメモ)を持ち出し袋に ③避難所では受付で認知症であることを伝え、静かな場所への配置を相談 ④手をつなぐ・見える位置にいるを徹底、が基本です。介護者1人で抱え込まず、周囲に助けを求めてください。
Q. 個別避難計画とは何ですか?
A. 自力での避難が難しい方について、「誰が・どうやって・どこへ」避難を支援するかを一人ひとり決めておく計画で、自治体が作成を進めています。要介護認定を受けている方や障害のある方は、ケアマネジャーや自治体の窓口に「個別避難計画を作りたい」と相談してみてください。