この記事でいちばん大事なこと
海の近くで強い揺れを感じたら、または弱くても長くゆっくりした揺れを感じたら、警報を待たずに、すぐ高い所へ逃げてください。「様子を見る」「荷物をまとめる」「家族を探しに戻る」——この数分が生死を分けます。
津波が「普通の波」と違う理由
海水浴で経験する波は、水面が上下しているだけです。しかし津波は、海底から海面までの水全体が壁のように押し寄せる現象です。同じ高さでも、含まれる水の量とエネルギーがまったく違います。
| 津波の高さ | 想定される影響 |
|---|---|
| 20〜30センチ | 速い流れに足を取られ、立っていられなくなることがある |
| 50センチ前後 | 大人でも流される。自力で歩いて逃げるのが難しくなる |
| 1メートル | 木造家屋に被害が出始める。ほとんどの人が命の危険にさらされる |
| 2メートル以上 | 木造家屋が全壊するおそれ。車は簡単に流される |
さらに津波は速く進みます。陸に上がってからでも、人が全力で走るより速いことがあります。「見えてから逃げる」では間に合いません。
この記事の結論
①揺れたら即、逃げる(警報を待たない)②とにかく高い所へ、遠くよりも高く③警報が解除されるまで戻らない。津波の備えはこの3つがすべてです。
逃げるタイミング:この揺れを感じたらすぐ
海や川の河口の近くにいるとき、次のいずれかを感じたら、それが避難開始の合図です。
- 強い揺れ(立っていられないほど)を感じた
- 弱くても、長くゆっくりした揺れが続いた(遠い場所の巨大地震の可能性があります)
- 揺れを感じなくても、津波警報・注意報が発表された
- 海の様子がおかしい(潮が異常に引く、聞いたことのない海鳴りがする)
「潮が引いたら津波」とは限りません
「津波の前には必ず潮が引く」と思われがちですが、引かずにいきなり押し寄せることもあります。潮が引くのを確認してから逃げようとしてはいけません。揺れを感じた時点で行動してください。
震源が近い場合、地震発生から数分で津波が到達する地域もあります。気象庁の津波警報は迅速に発表されますが、警報より津波のほうが早い場合があることを知っておいてください。
どこへ逃げるか:「遠く」より「高く」
津波避難の原則は、水平方向に遠くへ逃げることではなく、とにかく高い所へ上がることです。時間が限られるためです。
逃げ先の優先順位
- 近くの高台・避難丘
いちばん確実です。ハザードマップで避難経路が示されていることが多いので、事前に確認を。
- 津波避難ビル・津波避難タワー
自治体が指定した鉄筋コンクリートの建物。入口や外壁に指定の表示があります。高台まで距離がある地域で活用されます。
- 近くの頑丈な高い建物の上層階
指定がなくても、鉄筋コンクリートの建物のできるだけ上の階へ。木造家屋の2階では不十分な場合があります。
避難の途中で高さが足りないと気づいたら
「もっと高く」を優先してください。いったん避難した場所でも、想定より津波が大きい情報が入ったら、さらに上へ移動します。津波は複数回押し寄せ、2波目・3波目のほうが大きいことがあります。
逃げるときの注意
- 徒歩が原則。渋滞に巻き込まれると車ごと流されます
- 荷物は最小限。持ち出し袋を取りに戻らない
- 川沿いを避ける。津波は川をさかのぼり、内陸まで到達します
- ヘルメットや厚底の靴があれば履く(がれきや落下物からの保護)
- ラジオやスマホで情報を取れるようにしておく(安否確認と情報収集)
津波警報の3段階と、その場でとる行動
気象庁は地震発生後、数分以内に津波の予報を発表します。予想される高さによって3段階に分かれます。
| 種類 | 予想される高さ | とるべき行動 |
|---|---|---|
| 大津波警報 | 3メートル超(5m・10m・10m超などと発表) | ただちに高台か津波避難ビルへ。命に関わる状況 |
| 津波警報 | 1メートル超〜3メートル | ただちに高台へ避難。木造家屋が壊れる高さです |
| 津波注意報 | 0.2メートル〜1メートル | 海から上がり、海岸から離れる。海水浴・釣り・磯遊びは中止 |
最初の発表が「注意報」でも、あとで引き上がることがあります
地震発生直後の発表は限られた情報で行われるため、その後の解析で警報や大津波警報に引き上げられることがあります。実際、過去の災害でも引き上げが行われました。最初の発表の数字を信じて低い場所にとどまるのではなく、まず高い所へ移動してから情報を確認する順番にしてください。
なお、津波の高さは「平常の潮位からどれだけ高くなるか」を示したものです。地形によっては、湾の奥で波が集中して予想より高くなる場所もあります。数字は目安として受け取ってください。
車で逃げるべきか、歩いて逃げるべきか
津波避難で必ず議論になるのが、車を使うかどうかです。原則は徒歩ですが、理由と例外を知っておいてください。
車が危険な理由
- 渋滞。同じことを考えた人が一斉に道路へ出るため、動けなくなります
- 渋滞中に津波が来ると、車ごと流されます。車内からの脱出は困難です
- 地震で道路が壊れ、段差や亀裂で進めなくなることがあります
- 停電で信号が消え、交差点で流れが止まります
- 避難する歩行者の妨げにもなります
それでも車を使う場合
高台まで距離があり、歩いては間に合わない地域や、歩行が難しい家族がいる場合は、車が必要になることもあります。その場合は次を守ってください。
- とにかく早く動く。渋滞が始まる前に出ることが唯一の条件です
- あらかじめルートを決め、実際に走って時間を計っておく
- 渋滞に巻き込まれたら、迷わず車を捨てて走る。車は財産ですが、命とは比べられません
- 地域で「誰が誰を乗せるか」を決めておく(車が何台も出るより効率的です)
自治体によっては、地域の実情に合わせて車避難のルールを定めている場合があります。お住まいの地域の方針を確認しておいてください。
「戻らない」がもうひとつの鉄則
過去の津波災害では、いったん避難した人が戻って被害に遭う例が繰り返し起きています。
- 津波は一度で終わりません。数時間にわたって繰り返し押し寄せます
- 第1波が小さくても、後の波がはるかに大きいことがあります
- 家族を探しに戻る、貴重品を取りに戻る、車を移動する——これらで多くの命が失われています
- 津波警報・注意報が解除されるまで、絶対に低い場所へ戻らない
「探しに戻らない」ための事前の約束
家族を探しに戻ってしまう心理は自然なものです。だからこそ、平時に「それぞれが自分で高い所へ逃げる。探しに戻らない」と約束しておくことが、家族全員の命を守ります。集合場所は高台に決め、連絡手段も共有しておきましょう。この考え方は「津波てんでんこ」として、津波常襲地域で言い伝えられてきました。
住んでいる場所・行く場所を事前に確認する
津波は逃げる時間が短いため、その場で考える余裕はありません。事前の確認がそのまま生存率になります。
- ハザードマップで、自宅・職場・学校の津波浸水想定を確認する
- そこからいちばん近い高台・津波避難ビルを確認し、実際に歩いてみる
- 徒歩で何分かかるか計る(夜間や雨の日はもっとかかります)
- 避難経路にブロック塀・古い建物など、地震で通れなくなりそうな場所がないか見る
- 経路を2通り決めておく(1本が通れないことがあります)
旅行・帰省・レジャーのときの津波対策
津波の被害は、住民だけでなく観光客にも及びます。海の近くを訪れるときは、次の3つだけ意識してください。
- 宿に着いたら避難経路を確認する。ホテル・旅館には避難経路図が掲示されています。フロントで「津波のときはどこへ逃げますか」と聞いておくのも有効です
- 海水浴場・キャンプ場では、高い場所の方向を確認しておく。海に背を向けたときにどちらへ走るかだけでも決めておきます
- 「津波避難場所」の標識を意識して歩く。沿岸部には避難場所や海抜を示す表示が設置されています
知らない土地では土地勘がないぶん、標識と宿のスタッフの指示が頼りになります。揺れを感じたら、周りの人が動かなくても自分から動いてください。
津波のQ&A
Q. 津波警報と大津波警報の違いは何ですか?
A. 予想される津波の高さによって、津波注意報・津波警報・大津波警報の3段階が発表されます。大津波警報がもっとも危険度が高い区分です。ただしどの段階であっても、海の近くにいるなら避難が必要です。注意報だから大丈夫、とは考えないでください。
Q. 川の近くですが、海からは離れています。安全ですか?
A. 安全とは言えません。津波は川をさかのぼって内陸まで達します。河口から数キロ離れた場所で浸水した例もあります。ハザードマップで津波浸水想定を必ず確認してください。
Q. マンションの高層階なら逃げなくていいですか?
A. 津波の浸水想定より十分高い階にいる場合、その場にとどまる「垂直避難」が選択肢になります。ただし建物ごとに条件が異なるため、事前にハザードマップと管理組合の防災計画を確認しておいてください。浸水後は電気・水道が止まり孤立するため、備蓄も必要です。
Q. 家族が高齢で、すぐに逃げられません。
A. だからこそ事前の準備が重要です。避難にかかる時間を実際に計り、誰が手助けするかを決めておきます。自治体の「避難行動要支援者名簿」や個別避難計画の制度も活用してください。詳しくは高齢者がいる家庭の防災で解説しています。