断水で一番困るのはトイレという事実
人間は食事を我慢できても、トイレは我慢できません。トイレの回数は1人1日約5回。4人家族なら1日20回です。水洗トイレは1回流すのに数リットルの水を使うため、断水中に水で流し続けるのは現実的ではありません。つまり断水対策の主役は、水の確保と同じくらい「携帯トイレの備蓄」なのです。
携帯トイレの備蓄目安
1人1日5回 × 家族の人数 × 最低3日(できれば7日)。4人家族なら3日で60回分、7日で140回分。「多すぎる」と感じる数字ですが、断水の経験者がまず口をそろえるのがトイレの苦労です。まずは3日分から。
携帯トイレの使い方(一度練習しておく)
携帯トイレは「便器にかぶせる袋+吸水凝固剤」のセットです。使い方は、①便座を上げて便器に大きめのポリ袋をかぶせる(防水の下敷き)→②便座を下ろして携帯トイレの袋をセット→③用を足して凝固剤を振り入れる→④袋の空気を抜いて縛り、フタ付きの容器や消臭袋で保管、の4手順。非常時に初めて使うと必ず戸惑うので、家族で一度試しておくことを強くおすすめします。使用済みの袋は自治体の案内に従って処分します(多くは可燃ごみですが、収集再開まで自宅保管が必要です)。
水洗トイレをバケツで流す方法と「流してはいけない」場合
断水していても排水管が無事なら、バケツの水で流すことができます。ただし大きな地震の後は要注意。排水管が壊れた状態で流すと、汚水が階下や敷地内にあふれる二次被害につながります。
地震後すぐは「流さない」が鉄則
特にマンション・アパートでは、建物の排水管の点検が終わるまでは水で流さず携帯トイレを使ってください。管理組合や大家さんからの「流してOK」の連絡が目安です。戸建てでも、敷地内の排水ますにひび・ずれ・あふれがないか確認してから流しましょう。
- バケツ1杯(5〜8L)の水を用意する。床の飛びはね対策に新聞紙やタオルを敷くと後がラクです。
- 便器の中心をめがけて一気に流し込む。タンクに水を入れるのではなく、便器に直接。勢いが弱いと流れません。
- 3〜4Lの水を静かに注いで「封水」を回復させる。便器の水たまりは下水のにおいと虫を防ぐフタの役割があります。
繰り返し使う場合は、2〜3回に1度はバケツ2杯分(約10L)を流して、排水管の途中に汚物が残らないようにします。なお、タンクに残り湯を注ぐ方法は、髪の毛やごみで部品が故障する原因になるため避けてください。温水洗浄便座は停電・断水中は使いません。
飲み水の確保:備蓄+α
飲料水の基本は備蓄ガイドのとおり1人1日3L×最低3日分です。それに加えて、断水直前・直後にできることがあります。
- 断水の予告があったら(計画断水・台風前):やかん・鍋・清潔なペットボトルに水道水をくんでおく。水道水は直射日光を避ければ常温で約3日、冷蔵庫で約10日が飲用の目安です(塩素の効果が薄れるため)。
- 電気温水器・エコキュートのタンク:機種により数百リットルの水が入っています。飲用には向きませんが、生活用水として貴重です。取り出し方を取扱説明書で確認しておきましょう。
- 給水車・給水拠点:自治体が開設します。場所は自治体サイトや防災無線で案内されるので、自宅近くの給水拠点を今日調べておくと当日慌てません。
水を運ぶ道具:10リットルは想像より重い
給水拠点まで行っても、入れ物がなければ水はもらえません。そして水は10Lで10kg。手で提げて長距離運ぶのはかなりの重労働です。
- ポリタンク(10L×2個がおすすめ。20L×1個は満タンだと重すぎます)
- 折りたたみ給水袋・給水リュック(背負えるタイプが最強)
- キャリーカート(台車)。マンション住まいなら特に必須級
- 予備のポリ袋(段ボール箱+ポリ袋2重でも即席の水タンクになります)
生活用水と衛生:洗えない日々を乗り切る
お風呂の残り湯は「ためおき」が基本
入浴後すぐに流さず、次に入るまで浴槽にためておくだけで、100L以上の生活用水(トイレ・掃除・初期消火用)が常に確保できます。小さな子どもがいる家庭は転落・溺水事故に注意。浴室のドアに鍵をかける、フタを閉めるなどの対策とセットで行ってください。
水を使わない衛生ワザ
- 食器:ラップを敷いてから盛り付ければ、洗い物ゼロ。紙皿・紙コップも活用
- 手:ウェットティッシュ+アルコール消毒で代用。調理前は使い捨て手袋
- 体:からだ拭きシート、水のいらないドライシャンプー
- 口:歯磨きシートか、少量の水でのうがい。口の中の衛生は誤嚥性肺炎の予防にもなり、特に高齢者は重要です
- 洗濯:断水中はあきらめて着替えでしのぐ発想に。下着の備えを多めに
復旧したときの注意
- 最初はにごり水や空気(ガタガタ音)が出ることがあります。きれいになるまで数分流してから使う
- 復旧直後の水は洗濯より先にトイレ・掃除に使うと、にごりのトラブルを避けられます
- 断水中に蛇口を開けっぱなしにしていると、復旧時に水浸しになります。断水中も蛇口は閉めておく
給水車・給水所を使いこなす
断水が長引くと、自治体が学校や公園に給水所を開設し、給水車が巡回します。初めてだと戸惑うポイントを押さえておきましょう。
- 開設場所と時間の調べ方:自治体の公式サイト・防災アプリ・防災無線・広報車で告知されます。停電が重なるとネットが使えないこともあるので、携帯ラジオや掲示板などの情報手段も併用を。
- 持って行く物:給水袋またはポリタンク、台車やキャリーカート(10Lの水は10kg。想像以上に重いです)、両手を空けるリュック。
- 容器がないとき:厚手のポリ袋を2重にしてリュックやバケツの内側にセットすれば、即席の給水袋になります。段ボール箱+ポリ袋2重でも運べます。
- もらった水の扱い:給水車の水は塩素消毒された水道水ですが、容器に入れたあとは直射日光を避けて保管し、飲用は当日〜翌日を目安に使い切りましょう。古くなった分は生活用水に回します。
- 高齢の家族だけの世帯は、重い水の運搬が大きな負担になります。近所で声を掛け合う、家族が代わりに運ぶ段取りを決めておきましょう(高齢者の防災ガイド参照)。
お風呂の残り湯:正しいため方と使い方
「お風呂に水をためておく」は断水対策の定番ですが、正しく使わないと事故や故障のもとになります。
ため方のコツ
- 台風接近など断水が予想されるときに、入浴後の残り湯を抜かずに残すのが基本形。浴槽1杯は約180〜200Lで、トイレや洗濯に使う生活用水として大きな備えになります。
- ふたをして、ほこりや虫の混入を防ぐ。
- マンションの場合、地震後は排水管の破損確認が済むまで浴槽の水もトイレに流さない(トイレ対策ガイド参照)。くみ置きの水は手洗い・体拭き・食器の予洗いなどに回しましょう。
小さな子どもがいる家庭は「ためっぱなし」に注意
浴槽の残り湯は、幼児の溺水事故の原因になります。小さな子どもがいる家庭では、ふだんはためっぱなしにせず、台風接近時など必要なときだけためる運用にし、浴室のドアに鍵やストッパーを付けるなど安全対策とセットで行ってください。
残り湯の使いみち優先順位
- トイレ用(排水管が無事と確認できた場合のバケツ洗浄、または手洗い用)
- 体を拭く・部分的に洗う(沸かし直せればなお良い)
- 掃除・つけ置き
残り湯は雑菌が増えているため、飲用・調理・食器の仕上げすすぎには使わないでください。
断水のQ&A
Q. 断水の予告が出た。直前にやることは?
A. ①浴槽に水をためる ②飲料水用にやかん・鍋・ペットボトルにくみ置き(清潔な容器で口元まで満たしてふたをすれば、飲用は3日程度が目安)③洗濯・食器洗い・入浴を済ませる ④携帯トイレの数を確認、の4つです。くみ置きの水は直射日光を避けて保管してください。
Q. 断水中に洗濯はどうする?
A. 数日なら「着回しでしのぐ」が正解です。下着や靴下など最小限の物だけ、大きめのポリ袋に水と洗剤を入れてもみ洗いすれば、少ない水で洗えます。すすぎは1回で済むよう洗剤は少なめに。防災用に下着を1人3日分多めに持っておくと、洗濯そのものを先送りできます。
Q. 復旧後、水がにごっているときは?
A. 断水復旧直後は、管の中のサビや空気で水が茶色や白くにごることがあります。屋外の蛇口や浴室など、飲用以外の蛇口からしばらく流して、透明になってから使ってください。にごりが長く続く場合は水道局へ連絡を。集合住宅では受水槽の点検が終わるまで時間がかかることもあります。
Q. 井戸水や川の水は飲めますか?
A. 見た目がきれいでも、細菌や化学物質のリスクがあるため、そのまま飲むのは避けてください。煮沸(沸騰後1分以上)である程度の殺菌はできますが、化学物質は除去できません。災害時はまず備蓄水と給水所の水を頼り、自然水はトイレなどの生活用水に限定するのが安全です。