お金と書類 ③
認知症とお金 ― 口座凍結を防ぐ備え
親が認知症になると、たとえ家族でも親の口座からお金を引き出せなくなることがあります。介護費用は待ってくれません。このページでは、口座凍結の仕組みと、親の判断能力があるうちにしかできない備えを、選択肢の比較つきで解説します。
口座凍結はなぜ・いつ起きるのか
銀行は、口座名義人の判断能力が失われたと知ると、本人保護のために取引を制限します。これが俗にいう「口座凍結」です。悪意ではなく、本人の財産を詐欺や不適切な引き出しから守るための仕組みですが、家族にとっては「親の介護費用を親のお金で払えない」事態になります。
キャッシュカードがあれば大丈夫、は危険な思い込み
暗証番号を知っていればATMで引き出せる、と考える家庭は多いですが、カードの再発行・定期の解約・振込限度額の変更など、窓口手続きが必要になった瞬間に行き詰まります。また、家族による無断の引き出しは、後で相続人間のトラブル(使い込みを疑われる)の火種にもなります。
備えは「判断能力があるうち」が分かれ道
認知症対策の制度は、本人に契約する判断能力があるうちにしか使えないものがほとんどです。判断能力が下がった後では、選択肢は事実上「法定後見制度」だけになります。
事前対策の選択肢を比較する
| 方法 | できること | 費用の目安 | 向いている家庭 |
|---|---|---|---|
| 銀行の代理人カード・代理人指名制度 | 指定した家族がATM・窓口で入出金できる(銀行・範囲は銀行ごとに異なる) | 無料〜数百円程度 | まず最初の一歩として全家庭に |
| 日常生活自立支援事業(社会福祉協議会) | 日常のお金の出し入れ・書類預かりを支援員がサポート | 月数百〜数千円程度 | 近くに頼れる家族がいない場合 |
| 任意後見契約 | 本人が選んだ人が、判断能力低下後に財産管理・契約を代理(公正証書で契約、発効時に監督人) | 契約時数万円+発効後は監督人報酬(月額) | 託せる家族がいて、本人の意思で決めたい場合 |
| 家族信託(民事信託) | 財産の管理・処分を家族に託す。凍結の影響を受けにくく、実家の売却などにも対応しやすい | 専門家報酬など初期に数十万円規模 | 不動産や施設費用の捻出まで見据える場合 |
| 生前贈与・生命保険の活用 | 介護資金を先に移す・保険金として受け取れる形にする | 税制の確認が必要 | 税理士に相談しながら進めたい場合 |
組み合わせが基本 ―「代理人制度+α」で考える
日常のお金は代理人制度でカバーし、実家の売却や大きな財産管理が想定されるなら任意後見か家族信託を検討する、という2段構えが現実的です。制度の設計は司法書士・弁護士など専門家に相談してください(初回相談無料の窓口は相談先ガイドへ)。
まずできる簡単な備え3つ
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生活費の引き落としを1つの口座に集める
公共料金・保険料・施設費の引き落としを親のメイン口座に集約しておけば、仮に凍結されても自動引き落としは継続されるのが一般的です。「支払いが止まらない仕組み」を先に作ります。
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年金の受取口座を確認する
年金がどの口座に入るかを把握し、その口座から生活費が回る形にしておくと、日常のお金の流れが自動化されます。
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取引銀行を減らす
口座が5つも6つもあると、いざという時の手続きが銀行の数だけ発生します。元気なうちに2〜3口座へ整理しておくのは、本人にとってもメリットです。→ 重要書類の整理と同時に
凍結されてしまったら ― 法定後見制度
すでに判断能力が低下し口座が動かせない場合は、家庭裁判所に申し立てて成年後見人(法定後見)を選んでもらうのが正式なルートです。
全国銀行協会の考え方 ― 医療・介護費なら柔軟対応の余地も
業界団体は、本人の医療費・介護費など本人の利益が明らかな支払いについては、成年後見によらずとも柔軟に対応しうるという考え方を示しています。凍結時は諦める前に、使途を示す書類(施設の請求書など)を持って銀行に相談してみてください。対応は銀行ごとに異なります。
親への切り出し方と進め方
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「認知症になったら」ではなく「入院したら」で話す
認知症という言葉は本人の抵抗が強くなりがちです。「入院中に支払いが止まると困るから、代理人カードだけ作っておかない?」なら、同じ備えでも受け入れられやすくなります。
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銀行の無料の仕組みから始める
いきなり家族信託の設計から入らず、①代理人カード → ②口座の整理 → ③必要に応じて任意後見・家族信託、と段階を踏みます。
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きょうだい全員に共有してから動く
お金の管理を一人が引き受けると、後で必ず疑念の種になります。「誰が・何を・どこまで」を家族会議で共有し、記録を残してから進めてください。→ 家族会議の進め方
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専門家への相談は「本人と一緒に」
任意後見や家族信託は本人の契約です。子どもだけで専門家と話を固めると、本人の意思確認の段階でやり直しになります。最初の相談から本人同席が近道です。
よくある質問
もう軽い物忘れが始まっています。間に合いますか?
「物忘れがある=契約できない」ではありません。契約の意味を理解できる判断能力が残っていれば、任意後見や家族信託を結べる場合があります。ただし進行してからでは選択肢が消えていくので、かかりつけ医に相談しつつ、できるだけ早く専門家(司法書士・弁護士)に判断能力の評価を含めて相談してください。
家族信託と任意後見、どちらがいいですか?
目的次第です。日常の財産管理と将来の身上監護(施設契約など)まで含めるなら任意後見、実家の売却や賃貸など積極的な財産の運用・処分まで想定するなら家族信託が向くとされます。併用する設計もあります。財産構成で答えが変わるため、比較表を持って専門家に相談するのが確実です。
親の年金を家族が代わりに受け取ることはできますか?
年金の受取口座は本人名義が原則です。だからこそ「年金が入る口座から生活費が自動で回る仕組み」を先に作ることが重要になります。本人の判断能力が失われた後の年金管理は、成年後見制度の役割です。