兄弟でもめない進め方

実家でもめるのは、金額が大きいからではありません。分けられない、負担が偏る、感情が乗る。この3つに手を打つ方法を整理します。

読む目安:約10分

実家でもめる理由は「金額」ではない

遺産分割で争いになる件数のうち、遺産総額が5,000万円以下のケースが大半を占めるといわれます。「うちは財産がないからもめない」は、残念ながら成り立ちません。

実家がもめる原因は、次の3つに集約されます。

  • 分けられない:現金なら等分できますが、家は切り分けられません。
  • 負担が偏る:近くに住む人だけが介護と管理を担い、その労力は金額に換算されにくい。
  • 感情が乗る:親の看取り、生前の援助、実家に対する思い入れ。これらが遺産の話に混ざります。

「言わなかった不満」が後から出る

その場では納得したように見えても、あとから不満が噴き出すのが遺産分割の特徴です。防ぐには、決めたことを書面にすることと、金額の根拠を全員が同じ資料で見ることです。感情の対立を、事実の共有に置き換えていく作業だと考えてください。

実家の分け方は4つ

実家の4つの分け方
分け方内容向いている場合注意点
現物分割実家は誰か1人が相続し、他の財産を他の人が受け取る実家以外にも財産があり、バランスが取れる場合実家の評価額をいくらとするかでもめやすい
換価分割実家を売って、現金を分ける誰も住まず、売れる見込みがある場合売却まで時間がかかる。売れなければ成立しない
代償分割実家を相続する人が、他の相続人に現金を払う誰かが住み続ける場合現金を用意できるかが前提
共有分割相続人全員の共有名義にする—(おすすめしない)売却に全員の同意が必要。次の相続でさらに複雑化する

共有名義は問題の先送り

その場では公平に見えるため選ばれがちですが、実家の共有名義は将来のトラブルをほぼ確実に生みます。売るにも貸すにも全員の同意が必要で、共有者の一人が亡くなればその子や配偶者が加わり、権利者が増え続けます。「今は決められないから、とりあえず共有で」は、次の世代に難題を渡す選択です。

実務では、誰も住まないなら換価分割(売って現金で分ける)が最もすっきりします。金額が明確で、全員が同じ基準で受け取れるためです。

費用と作業の負担をどう分けるか

実家じまいでは、遺産の分け方とは別に「かかった費用と手間をどうするか」という問題があります。

費用の負担の決め方

  • 相続財産から先に支払う:最も公平で、もめにくい形です。預貯金があるならこれが基本。
  • 相続分に応じて負担する:多く受け取る人が多く負担する。
  • 実家を取得する人が負担する:家をもらう代わりに片付けと解体を引き受ける。

作業の負担をどう評価するか

近くに住む人が何度も通って片付ける労力は、金額に換算しづらいものです。ただし、次のものは実費として精算できます。

  • 交通費(帰省・立ち会いの実費)
  • 業者への支払い、ごみ処理費用
  • 資料の取得費(戸籍・登記事項証明書など)
  • 宿泊費

最初に決めておく3つ

  1. 費用は誰が立て替え、いつ精算するか
  2. 領収書は誰が管理するか
  3. いくらまでなら相談なしで支出してよいか(たとえば「3万円まで」)

この3つを最初に決めておくだけで、後の「勝手に使った」という不満をかなり防げます。

寄与分と特別受益

「自分は親の介護をした」「兄は家を建てるとき援助を受けた」。こうした事情を遺産分割に反映させる仕組みがあります。

寄与分

被相続人の財産の維持や増加に特別の貢献をした相続人は、その分を上乗せして受け取れる場合があります。ただし、認められるハードルは高く、「通常期待される程度の親孝行」では認められません。無償で長期間、専従的に介護をしたなど、特別な事情が必要です。

また、2019年からは特別寄与料の制度ができ、相続人ではない親族(たとえば長男の妻)が介護をした場合に、金銭を請求できるようになりました。請求には期限(相続開始と相続人を知った時から6か月、または相続開始から1年)があります。

特別受益

生前に住宅資金の援助や多額の贈与を受けていた相続人がいる場合、その分を相続財産に持ち戻して計算します。ただし、被相続人が「持ち戻さなくてよい」という意思を示していた場合(持戻し免除)は対象外です。

感情の問題として扱わない

寄与分も特別受益も、感情的に言い合うと解決しません。介護の記録(日誌、通院の付き添い、支出)や、贈与の記録(振込明細、契約書)といった資料があるかどうかが、実際の判断を分けます。主張したいことがあるなら、記録を残しておいてください。

話し合いの進め方

  1. 全員に情報を同時に共有する誰か一人だけが情報を持っている状態が、不信の始まりです。固定資産税の通知書、査定額、家の写真を全員に配ります。
  2. 結論から入らない「売ろうと思う」ではなく「どうしたいか聞かせてほしい」から始めます。
  3. 希望を先に全部出すその場で反論せず、まず全員の希望を書き出します。
  4. 事実で埋められる部分を埋める査定額、解体費、固定資産税、修繕費。数字が入ると、感情論の余地が減ります。
  5. 決まったことを書面にする簡単なメモでも構いません。日付を入れて全員に共有します。
  6. まとまらなければ第三者を入れる司法書士、弁護士、または家庭裁判所の調停。当事者だけで長期戦になるより、早く第三者を入れたほうが結果的に負担が軽くなります。

まとまらないときの手段

  • 遺産分割調停:家庭裁判所で、調停委員を交えて話し合います。申立費用は数千円程度で、弁護士なしでも申し立てられます。
  • 遺産分割審判:調停が成立しない場合、裁判所が判断を下します。

調停は「争い」というより「第三者に間に入ってもらう場」です。当事者同士では感情的になってしまう場合、早めに使ったほうが解決は早くなります。

親が元気なうちにできる予防

最も効果があるのは、親に遺言書を書いてもらうことです。遺言があれば、遺産分割協議そのものが不要になります(遺留分の問題は残ります)。

  • 自筆証書遺言+法務局の保管制度:手数料3,900円で預けられ、検認も不要になります。紛失や改ざんの心配がありません。
  • 公正証書遺言:公証役場で作成します。費用は財産額により数万円〜十数万円。形式の不備で無効になる心配がなく、最も確実です。

あわせて、なぜそう分けるのかという理由(付言事項)を書いてもらうと、残された家族の納得感がまったく違います。「長男には家を継いでもらうので多く残す。次男には大学の費用を出したから」といった説明があるだけで、争いになる確率は下がります。

親に切り出しにくい場合

「遺言を書いて」とは言いにくいものです。「相続で困った知り合いがいる」「手続きが大変らしい」という第三者の話から入る、あるいは自分自身がエンディングノートを書いてみせる、といった入り方があります。親にどう切り出すかも参考にしてください。

このページのよくある質問

兄が実家に住み続けたいと言っています。どうすればよいですか。

代償分割が基本の形です。兄が実家を相続し、その評価額に応じた現金を他の相続人に払います。現金が用意できない場合は、支払いを分割にする、他の財産で調整するなどの方法を話し合うことになります。

介護をずっと1人でやってきました。多くもらえますか。

寄与分として認められる可能性はありますが、ハードルは高いのが実情です。介護の記録や支出の証拠があるかどうかで判断が変わります。まずは他の相続人に事情を説明し、話し合いで調整するのが現実的です。

連絡が取れない兄弟がいます。

戸籍の附票から住所を調べて手紙を出すのが一般的です。それでも連絡が取れない場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる方法があります。司法書士や弁護士に相談してください。

話し合いがまとまらないまま3年が過ぎそうです。

相続人申告登記をすれば、相続登記の義務は果たしたことになります。並行して、遺産分割調停の申し立てを検討してください。時間が経つほど関係者が増え、解決は難しくなります。