生前にやれること、死後にしかできないこと

この線引きを知らないまま進めると、本来なら簡単だったことに何十万円もかけることになります。どちらでやるべき作業なのかを最初に整理しておきましょう。

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生前と死後で、できることはこれだけ違う

実家じまいの作業は、大きく「親が元気なうちにしかできないこと」「亡くなってからでないとできないこと」「どちらでもできること」に分かれます。この線引きを知らないと、本来は簡単だったことを、何十万円もかけてやり直すことになります

生前と死後でできることの違い
作業生前死後コメント
家の売却本人ならすぐできる相続登記のあと生前のほうが圧倒的に簡単。ただし税金の扱いが変わる
預貯金の引き出し本人ならできる凍結され、相続手続きが必要認知症になると生前でもできなくなる
家の名義変更贈与(贈与税に注意)相続登記(3年以内の義務)生前贈与は税負担が大きくなることが多い
物の処分本人の同意があればできる相続人全員の合意が望ましい生前のほうが判断が速い
生命保険の内容確認本人が問い合わせ可能相続人が請求生前に一覧を作っておくと確実
解体所有者の判断でできる相続登記のあとが基本更地にすると固定資産税は上がる

親が元気なうちにやっておきたい7つ

  1. 家と土地の名義を確認する法務局で登記事項証明書を取ります。祖父母名義のままだと、相続人が一気に増えて手続きが重くなります。分かった時点で手を打てば、まだ関係者が少なくて済みます。
  2. 親の資産の一覧を作る銀行口座、証券口座、生命保険、年金、不動産、借入。通帳のコピーではなく「どこに何があるか」の一覧で十分です。ネット銀行やネット証券は、本人しか知らないことが多いので必ず聞いておきます。
  3. 重要書類の置き場所を1か所にまとめる権利証、保険証券、年金手帳、実印と印鑑登録カード。親と一緒に「この引き出しに全部入れる」と決めておくと、いざというときの探し物が激減します。
  4. 家をどうしたいか、親の希望を聞く売ってよいのか、誰かに継いでほしいのか。理由まで聞いておくと、兄弟で判断が割れたときの拠りどころになります。
  5. 大きな物・重い物を先に減らすタンス、ピアノ、農機具、物置の中身。体力が要るものは、親も子も元気なうちのほうが確実にラクです。
  6. 写真とアルバムをデータにする遺品整理でいちばん時間がかかるのが写真です。親が元気なうちなら「これは誰?」と聞けます。亡くなってからでは誰も分かりません。
  7. お墓と仏壇の方針を決めておく墓じまいをするのか、誰が継ぐのか。仏壇をどうするのか。これも本人の希望を聞けるのは生前だけです。

生前贈与は慎重に

「今のうちに家の名義を子に移しておこう」と考える方がいますが、生前贈与は贈与税が高くつくことが多く、相続で受け取るより税負担が大きくなるケースが少なくありません。また2024年1月以降、暦年贈与を相続財産に加算する期間が3年から7年へ段階的に延長されています。実行する前に、必ず税理士に試算してもらってください。

亡くなってからでないとできないこと

逆に、相続が発生してからでないと進められない手続きもあります。

相続登記(名義変更)

相続人が確定し、遺産分割の話し合いがまとまってから申請します。相続を知った日から3年以内という期限があります。詳しくは名義変更と相続登記へ。

預貯金の払い戻し

金融機関が死亡を知ると口座は凍結されます。相続人全員の同意書類を揃えて手続きするのが原則ですが、葬儀費用などのために一定額を単独で引き出せる「預貯金の仮払い制度」もあります。

相続放棄

借金のほうが多い場合などに選びます。相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申し立てます。ただし放棄しても実家の管理義務が残る場合がある点に注意が必要です。相続放棄と実家で詳しく扱います。

空き家の3000万円特別控除

相続した実家を売るときに使える大きな控除ですが、相続によって取得したことが条件なので、生前に売ってしまうと使えません。一方、親が住んでいるうちに親自身が売れば、親のほうで居住用財産の3000万円控除が使えます。どちらが得かは状況によります。売却の流れと税金を参照してください。

生前に売るか、相続してから売るか

よく聞かれる質問です。単純化すると次のようになりますが、金額によって答えが変わるため、必ず個別に試算してください。

生前売却と相続後売却の比較
親が生前に売る相続してから売る
手続きの手間軽い(本人が契約できる)重い(相続登記が必要)
使える控除居住用財産の3000万円特別控除(住んでいる場合)空き家の3000万円特別控除(条件が細かい)
取得費の扱い親の取得費を使う親の取得費を引き継ぐ
相続税への影響現金になるため評価が上がることがある小規模宅地等の特例が使える場合がある
向いているケース親が施設に入り、家が確実に不要なとき相続税がかかる見込みで、特例が使えるとき

判断の前に、まず金額を知る

どちらが得かは「その家がいくらで売れるか」が分からないと計算できません。査定は無料で受けられるので、方針を決める前に相場を把握しておくと、家族での話し合いが具体的になります。

認知症になると止まってしまうこと

実家じまいで最も深刻なのが、親の判断能力が下がったあとに動けなくなる問題です。

  • 親名義の家は売れません(本人が契約できないため)
  • 親の口座からお金を引き出せません(施設費用の支払いにも影響します)
  • 遺産分割協議に参加できません(相続人に認知症の方がいる場合も同じです)

この状態を解決する制度が成年後見制度ですが、いったん始めると原則として本人が亡くなるまで続き、後見人への報酬も発生します。また、家を売るには家庭裁判所の許可が必要です(居住用不動産の場合)。

そうなる前の備えとして、家族信託(民事信託)や任意後見契約といった選択肢もあります。いずれも本人の判断能力があるうちにしか契約できません。「まだ大丈夫」と思える時期にしか準備できないのが、この分野の難しさです。

このページのよくある質問

親が施設に入りました。空き家になった実家はすぐ売るべきですか。

急いで決める必要はありませんが、誰も住まない家は傷むのが早く、固定資産税や火災保険もかかり続けます。親の意思確認ができるうちに、売却・賃貸・保有のどれにするかを話し合っておくと、後の判断が楽になります。

生前に子の名義に変えておけば相続手続きが不要になりますか。

その家については相続登記が不要になりますが、贈与税や不動産取得税がかかり、結果として高くつくことが多いです。相続時精算課税制度など選択肢はありますが、必ず税理士に試算してもらってください。

親が「家は長男に」と言っていますが、遺言はありません。

口頭の希望には法的な効力がありません。本人の意思を実現したいなら、遺言書(自筆証書遺言でも可。法務局の保管制度を使うと安全です)を残しておくのが確実です。